『いのちの木』
ポプラ社
作・絵/ブリッタ・テッケントラップ
訳/森山 京
ポプラ社 公式サイト
https://www.poplar.co.jp/book/search/result/archive/2730037.html
『いのちの木』あらすじ
キツネは森で長くしあわせに暮らしてきましたが、ある日、お気に入りの場所でからだをそっと横たえると、永遠の眠りに落ちます。やがて、その場所には1匹、もう1匹と森の仲間が集まり、キツネとの思い出を語り始めます。すると、キツネが横たわっていた場所から、キツネと同じオレンジ色の芽が出てきました。その木はやがて大きな木になり、キツネのともだちの生きる支えとなるのでした。
作者はベルリン在住の絵本作家
作者のブリッタ・テッケントラップさんは、ドイツ・ハンブルク生まれの絵本作家であり、イラストレーター。イギリスで絵を学び、ロンドンに住んだあと、現在はベルリンに在住しているとか。
講談社コクリコによると、その作風は「息をのむような繊細で美しい版画」に彩られているのが特徴だとか。ボローニャラガッツィノンフィクションアワードなど数々の賞を受賞しており、120冊以上ある著書は30ヵ国以上の言語に翻訳されているそうです。
自身のアトリエで撮ったと思われるポートレートには、鳥の絵のようなアートパネルが背景に写っていて、その繊細な美しさが伝わってきます。
講談社コクリコ
https://cocreco.kodansha.co.jp/profile/author/VQUi9
翻訳は森山京さん。児童書「きつねの子シリーズ」の作者としても有名で、このシリーズは親子2代で読んでいる人も多いようです。森山京さんが訳していることをきっかけに、本書を手に取る人もいるかもしれませんね。
「死」は悲しいことではない
この絵本で、主人公のキツネは、すぐにいなくなってしまいます。その死について、「からだを そっと よこたえ」「キツネのめは、二どと ひらきませんでした」という柔らかな表現がされているので、まだ小さな子は、死んでしまったことがわからないかもしれません。
そのあとは姿を現さず、森の仲間たちの思い出として描かれることで、“キツネは、みんなの前からいなくなったんだ”ということが、じわじわと伝わってきます。
「死」というと、“もう会えない”という悲しい感情が、どうしても付きまといますよね。この絵本では、キツネがいなくなったあとも、みんなの思い出のなかに生きている様子が描かれるので、子どもが悲しい気持ちにならないで済むような気がします。
森のなかのお気に入りの場所で、大好きな森の景色をながめたあとに亡くなるキツネ。まるで、眠りに落ちるときのように。この絵本で描かれる「死」には、こわさがありません。永遠の眠りについたキツネの命を尊重するように描かれています。
森に芽を出したオレンジの木はどうなる…?
どれだけ大切な人であっても、悲しいことに、その人の死を止めることはできませんよね。キツネと長い間の友だちだっとフクロウも、キツネが死んだあと、しばらくは悲しみに打ちひしがれていました。ところが、しばらくして、キツネとの思い出を話し始めます。親切で思いやりがあったキツネは、みんなから愛されていた存在。動かなくなったキツネのもとにやってきた仲間たちは、フクロウにつづいて、次々とキツネとの思い出をかたりはじめます。キツネの一生はきっとしあわせなものだったのだろうな、と想像できます。
もう会えない大切な人を思うとき、その人とのあたたかい思い出が胸をよぎる人は多いのではないでしょうか。仲間たちが語るキツネの思い出も、まさに、あたたかいものばかり。読みながら、心があたたまっていくのが感じられます。
あるとき、キツネが横たわっていた雪の下から、オレンジの芽が出てきました。その芽は、キツネとの思い出が語られるたびに大きくなっていきます。最後は、森のみんなが住めるくらい大きく立派な木になり、キツネの友だちすべての生きる支えとなります。
命が消えてしまっても、その人の思い出は心のなかに生き続ける。亡くなったキツネにとっても、そこはきっと、森のみんなをこれからも見守りつづけることができる場所。大切な人の存在は、残された人たちの中に生きつづけることで引き継がれているのだなと、大人もまた、考えさせられる一冊でした。
ブリッタ・テッケントラップの本が気に入ったら…
日本でもよく翻訳されているブリッタ・テッケントラップの本ですが、Amazonを見ると、今回紹介した『いのちの木』がもっともよく読まれているようです。また、この絵本と同じように、生きものが描かれることが多いことがわかります。
わたしがブリッタ・テッケントラップの絵本で次に読みたいのは、講談社から刊行されている『There are・・・(いろんなところに)』という科学絵本のシリーズです。魚、動物、虫たちがきれいな版画で描かれていて、同じページを何度も読みたくなりそう。図鑑に近いのかもしれませんが、絵が本当にきれいなので、絵を楽しめるという意味ではやっぱり「科学絵本」なんでしょうね。美しい絵をうっとりと眺めながら、知らないうちに生きものにくわしくなれそうで、俄然興味があります。
ほかにも、書店や図書館、Amazonの本コーナーなどで作者の作品を探るうちに、「これ知ってた!」という本に出会えるかもしれません。私の場合は、図書館で以前借りたことのある『とらさんおねがいおきないで』(ひさかたチャイルド)が同じ作者だと知って、やはり日本でも人気の作者さんなんだなと実感しました。
英語を勉強されているお子さんには、平易な英文で描かれているという『いのちの木』の英語版『THE MEMORY TREE』もおすすめです。
『いのちの木(ポプラせかいの絵本)』
『いろんなところに いろんなむし』
『とらさんおねがいおきないで』
『THE MEMORY TREE(ペーパーバック)』
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