大切な人を想う気持ちはみんな同じ『としょかんライオン』【出会えてよかった絵本】

Book

『としょかんライオン』
岩崎書店
ミシェル・ヌードセン さく
ケビン・ホークス え
福本友美子 やく

 

2006年に刊行され、世界中で翻訳されている名作『としょかんライオン』。図書館の“きまり”をとおして、大切な人を想う気持ちはみんな同じだということを教えてくれる絵本だと思います。大人が読んでもおおきな感動がありました。図書館が舞台になっていることも、この絵本の特徴。レンガ造りの立派な門構えやアーチ型の窓、そこにいる人たちのクラシカルな服装など、作者が在住するニューヨークの図書館を想像させるようなイラストも気に入っています。

『としょかんライオン』のあらすじ

いつも静かな図書館にライオンが現れ、みんな大あわて。でも心やさしいライオンは、すぐにみんなと仲良しに。ところがある日…。深い感動を呼び世界で話題の絵本。<岩崎書店のリリースより>

 

ニューヨークでは演劇にもなっている人気作

『としょかんライオン』は、3年ほど前に図書館で借りたのをきっかけに、気に入って自分でも購入しました。図書館では棚に飾られていたし、その後に書店などで何度も見かけたので、人気の高い絵本なんだなと感じたのを覚えています。刊行されたのは2006年で、英語版のタイトルは『Library Lion』。登場する人たちの服装がクラシカルなので、もっと昔からあるロングセラーだと思っていたら、意外と最近の本なんですね。

著者のミシェル・クヌーセンさんは1974年生まれ。ニューヨークで活躍する児童作家さんだとか。自分と年齢が近いので、個人的に親近感が湧いています。英語が得意ではないので若干の推測が入りますが、彼女のInstagramによると、『としょかんライオン』の舞台が近々上演されるようです(2024年8月現在)。ライオンをどうやって登場させるんだろう…と思っていたら、とても精巧につくられたライオンの人形が登場する様子。本に登場するライオンのやさしさが人形の表情にも滲み出ている…。ミシェルさんのInstagramに写真があるので、興味がある人はのぞいてみてくださいね。海外作家さんの日常が手に取るようにわかるなんて、便利な時代です…!

 

偶然にも、2024年1月、『としょかんライオン』の作・絵コンビによる17年ぶりの新作が岩崎書店から刊行されたようです。タイトルは『ネコになりたかったクモのルイージ』で、これがまたストーリーを追うだけでも泣きが予想される一冊。日本語版は『としょかんライオン』と同じく福本友美子さんが翻訳されているとか。『としょかんライオン』も世界中で翻訳されており、作者の人気の高さが伝わってきます。

 

 

【一部ネタバレあり】ちゃんとした理由があれば、きまりを守れないことだってある

※この章では絵本の見どころをお伝えします。一部ネタバレがありますので、先に絵本を読みたいという方は、この章を飛ばして読んでください。

子供たちと一緒に“おはなしのじかん”に参加したり、館長のメリウェザーさんの仕事の手伝いをしたりして、図書館にいる人たちとの交流を深めていくライオン。「図書館のなかで走らない」「おおきな声を出さない」というきまりも、しっかりと守っていました。ところが、本を取ろうとして台から落ちてしまったメリウェザーさんを助けようとしたとき、ライオンは「おおきな声を出さない」というきまりをやぶってしまいます。

ライオンが図書館にいるというファンタジーのような設定や、子供たちがライオンに寄りかかって“おはなしのじかん”を楽しむ和やかな場面など、この本には素敵なポイントがたくさんありますが、いちばんの見どころは、おおきな声を出した後、うなだれて出口へ向かうライオンの姿を描いた場面ではないでしょうか。図書館の人たちと仲良くなったライオンが、みんなと過ごすために誰よりも“きまり”を大事にしていたことや、メリウェザーさんをどうにかして助けようとする想いの強さが感じられるシーンなのです。

また、ラストではライオンが図書館に戻ってきてハッピーエンドとなりますが、戻ってくるためのきっかけを図書館員の「マクビーさん」がつくるところも、見どころのひとつだと思います。マクビーさんは、みんなの人気者になったライオンに嫉妬して冷たいそぶりを見せる、絵本のなかで唯一、人間の負の一面を表出させる人物。それまでは館長のもとで働くイエスマンのような存在でしたが、戻ってこないライオンを探すため、みずから行動に出るのです。マクビーさんは、この本の影の主人公といえる存在かもしれません。

「ちゃんとした理由があれば、きまりを守れないことだってある」と子供に教えるのはむずかしいことですが、大切な人を想う気持ちはみんな同じだということが子供にも伝わってほしい、とこの本を読んで思います。自分でも、読んだときの感動を忘れられず、購入を決めました。

 

図書館は「誰でも入れるし、何でもできそうな場所」

この本を手に取る人は「図書館好き」が多いのではないでしょうか。わたしもそのひとりです。本書によると、この本の作者は図書館に勤めた経験があり、図書館について「だれでもはいれるし、なんでもできそうな場所」と語っています。たしかに図書館は誰でも迎え入れてくれる場所であり、いろいろな本を読んでいるうちに背中に翼が生えて遠くに連れていってくれるような、勇気を与えてくれる場所でもあります。

コーネル大学図書館の司書であった方への献辞も、本書に記されていますが、作者は司書の方とも親しくしていたようですね。わたし自身は図書館員や司書の方とゆっくり話したことがないので、図書館で本好きの友達ができたら楽しいだろうなと感じます。

ファッション雑誌「ELLE」の「アメリカで最も美しい、大学図書館ベスト21」というサイトによると、献辞に記されたコーネル大学はニューヨークにある名門校。キャンパスのなかに滝や湖、川まであるというから、その広大さに驚きます。図書館は20の図書館から構成される…つまり、図書館のなかに図書館があるらしく、図書館の広さもまた半端ではないようですね。ステンドグラスの窓や骨董品などを備えるというインテリアの美しさを、一度この目で見てみたいものです。

 

ちなみに、絵を手掛けたケビン・ホークスさんはメイン州出身。メイン州最大の都市であるポートランドは、100年以上前に建てられた歴史的建造物が多く残される港町だとか。もしかしたら、そのような歴史的建造物のイメージが、絵本に登場する図書館の造形につながっているかもしれませんね。

ネットで図書館について調べていたら、『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』という映画に出会いました。この映画は、世界最大級の知の殿堂といわれる図書館の舞台裏が描かれた映画だとか。これは観なければ!

 

Bitly

 

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