『たくさんのドア』
主婦の友社
著:アリスン・マギー
イラスト:ユ・テウン
翻訳:なかがわ ちひろ
アリスン・マギーは、アメリカを中心に活動する作家さんです。日本でもたくさんの翻訳本があり、2008年刊行の絵本『ちいさな あなたへ』がとても有名なので、ご存知の方がいるかもしれません。 『ちいさな あなたへ』は、アリスンが眠るわが子の姿を見ながら綴ったという子どもへの深い愛が描かれた一冊で、“ママが泣ける絵本”として話題になりました。
今回紹介する『たくさんのドア』は2018年に刊行。この絵本もまた、主人公に自分の子どもが重なり、親の心にグッと刺さる一冊です。息子にも3歳の頃に読み聞かせをしましたが、よく理解できていなかったかも。子どもの心に響くとしたら「親のありがたみ」がわかった頃ではないかと思います。
あらすじ
ひとりの子どもが、たくさんのドアの中から進む道を選択しながら、旅をしています。ここに描かれる世界は、いずれこの子が羽ばたく社会そのもの。社会の中には、たくさんの喜びと困難が待ち受けています。怖いもの知らずの子どもは、“おおきなもの”に見守られながら、いくつもの困難を自らの力で乗り越えていきます。
「わが子」が主人公の絵本
この絵本は「この子を見守る何者か」によって語られます。それは、お父さんやお母さんであったり、先生や先輩だったりすると思います。私自身はわが子に重ねて読みました。私にとって、この絵本の主人公はわが息子です。
子どもはもともと強いもの
わが子がこれからどんな大人になり、どこへ行き、どうやって人生の答えを見つけていくのか。そんな風に想いを巡らせながら子どもを見守る語り手の言葉には、不安と期待が入り混じります。それは親の心理そのもの。すでに自分の人生の中でたくさんの喜びと困難を経験してきた親は、子どもの行く先に待ち構えるのがポジティブな出来事ばかりではないことを知っていますからね。
私が好きなのは、本書に登場する下記の言葉です。
「あなたは まだ しらない じぶんが どれほど つよいかを」
(『たくさんのドア』より引用)
親の心配をよそに、子どもはもともと前に進むための力と可能性を持ち合わせているのです。子どもは親が思っているよりもずっと強い存在なのかもしれません。
親は子どもを見守る“おおきなもの”
子どもは自由に憧れて大空に羽ばたき、そして大海原へと乗り出していきます。その隣に親の姿はありません。彼らの心を開くのは誰かの言葉であり、彼らの心を満たすのは親ではない誰かのやさしさであることが、本書には描かれています。
この本を初めて読んだときから6年ほど経ちますが、今のほうがこの絵本の言葉がグッと心に刺さります。それは、本書が「巣立ち」を表した本だからなのかもしれません。
子どもはいずれ親から巣立っていきます。その事実を突きつけられるのは寂しいけれど、親である私たちは、彼らが大海原に乗り出すためのボートを用意することや、すこし離れた場所から見守ることはできるはず。
本書には、子どもを見守る存在として、大海原を進む子どもの小さな船の下に大きなクジラが描かれています。子どもがもし危険な目に遭ったら大きな存在が手を差し伸べてくれるだろうし、子どもは見守ってくれる存在を近くに感じているからこそ、強く前に進んで行けるのだということが、本書の中から伝わってきます。
子どもの背中を力強く押せる存在に
ネタバレは避けますが、ラストの言葉にも大きな共感がありました。その言葉を読んで感じたのは「何があってもわが子を守っていきたい」という気持ちでした。子どもの巣立ちを寂しがるのではなく、子どもの背中を力強く押せる存在でありたい感じています。
キラキラと輝く子どもの可能性が美しい言葉で綴られ、イラストもかわいらしく、この本を読むといつも「今は学校で何をやっているかな…」とわが子のことを思い出してしまいます。絵本そのものがわが子のようで、私にとっては宝物のような一冊です。
人生の揺れ幅を描いたアリスン・マギーの本
アリスン・マギーの絵本には、喜びと楽しさ、そして苦しさやつらさといった、人生の揺れ幅が描かれています。その中でも『たくさんのドア』は、子どもが冒険を重ねながら成長していく様子が描かれ、わが子が年齢を重ねるたびに愛おしさが増すような一冊。わが子がそのたくましい心で、人生という大海原を力強く進んでいけますように…!
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