小さい頃に家族といっしょに見た旅先の風景を、いまでも思い出します。
きれいな景色、初めて聞く音、空気のちがいなど、子供心に新しい発見がたくさんあって刺激的でした。
新しい発見は、子どもの感性をもっと豊かにしてくれるはず。
ここでは、想像力や冒険心を広げて、旅をしたくなるような絵本を3冊紹介します。
『リンドバーグ 空飛ぶネズミの大冒険』

【対象年齢:6歳頃から】
作:トーベン・クールマン(ドイツの絵本作家)/訳:金原瑞人
出版社:ブロンズ新社
初版年:2019年
ページ数:32ページ
定価:2420円
\こんな子におすすめ/
- 飛行機が好き
- 冒険に興味がある
- コウモリやフクロウなどの鳥類好き
お気に入りだったハンブルグの街に次々と“ネズミとり”が仕掛けられ、安心して暮らせなくなったネズミ。彼は、誰でも受け入れてくれるという“自由の女神”がいる場所、ニューヨークに行くことを決意します。
船で行こうとも、港は猫たちに見張られている。そんな時、コウモリが飛ぶのを見て空を飛ぶことを思いつきました。飛行機です。
最初は木ぎれや新聞紙を組み合わせただけ。これでは、すぐに落ちてしまいます。でも、ネズミはあきらめません。蒸気機関車を見て、蒸気で飛ぼうと考えました。それなら長く飛べるはず。でも、パワーが強すぎるから翼と方向舵をつけなくちゃ…。
ネズミのひらめきとアイデア、そして強い意志は、どんな困難も乗り越えていき、切磋琢磨ってこういうことを言うんだな…と感じます。「街から消えてしまった仲間たちに会いたい」そんな気持ちが彼の心を突き動かしたのかもしれません。
飛行するシーンもいいけれど、私は小さなネズミが何度挫折してもあきらめずに飛行機を作る場面が、本作の見どころだと思います。ネズミは発明好き。中面に出てくる設計図はどれも精密に描かれていて、テンションが上がります!
主人公のネズミを見ていると、目の前にある壁を乗り越える方法はきっとあるような気がしてきます。小さき者の成功が、読む人たちの大きな希望になるかもしれません。

ネズミなのにこんなにカッコいい飛行機がつくれるんだね!
◆『リンドバーグ 空飛ぶネズミの大冒険』公式サイト
『バムとケロのそらのたび』

【3歳頃から】
作:島田ゆか
出版社:文溪堂
発売:1995年
ページ数:32ページ
定価:1650円
\こんな子におすすめ/
- 飛行機が好き
- おじいちゃんっ子
- カラフルな絵が好き
カラフルな絵とともに楽しいお話が展開する「バムとケロ」のシリーズ。この作品で2人が挑戦するのは「ひこうきの旅」です。
ある日、おじいちゃんから届いた組み立て式のひこうき。「自分でひこうきを組み立てておじいちゃんに会いにいく」という設定自体、旅好きにはたまりません。ペンキで「BAM’s AIRPLANE」とオリジナルのロゴを入れるなど、飛行機作りはなかなか楽しそう。
飛行機に乗った2人には、おじいちゃんの手紙に書かれたとおり、さまざまな試練が降りかかります。「たまねぎ山脈の上を通るときは、かならずゴーグルをすること」など、どれもかわいい試練ばかりですが。
涙が止まらなくなってしまったケロは、おじいちゃんの手紙を最後まで読むのを忘れたようですね。それとも、バムがケロに伝えるのを忘れた? どちらにせよ、そんなうっかり屋さんな一面もかわいいのです。
“可愛い子には旅をさせよ”とは言うけれど。ラストシーンでおじいちゃんは、がんばった2人を思いっきり甘えさせていて、このくだりが本当に素敵。バムとケロをやる気にさせちゃうおじいちゃん、すごいなあ…。
バムケロシリーズには小さくてかわいいものがたくさん描かれているので、じっくりと目を凝らして楽しめるように、子どものペースに合わせてページをめくってあげてくださいね。

ハリネズミがどこにいるか、探してみて!
◆『バムとケロのそらのたび』公式サイト
『旅する小舟』

【8歳頃から】
作:ペーター・ヴァン・デン・エンデ
出版社:求龍堂
発売:2021年
ページ数:92ページ
定価:3080円
\こんな子におすすめ/
- モンスターやUMAが好き
- 絵を描くのが好き
- お話を作るのが好き
この本を初めて読む人はだいたい驚くのではないでしょうか。あまりにも創造的で奇妙な生きものたちがあふれているから。作者の頭の中どうなってるの…とページをめくるたびに驚きがあり、それが92ページも続きます。何日かに分けて読んでもいいかもしれませんね。
読むといっても、文章はありません。でも、じっくり眺めたくなる絵本なのです。
わが子は「現実と非現実」をある程度区別できる年齢(8歳)なので、「人に似た何か」や「クジラに似た何か」が、自分が知っている形と何が違うのかを比べて楽しんでいました。もっと小さい子なら、見るものすべてが新しい発見になるのかもしれません。ちょっとダークな表現もあるので、怖がりのお子さんは、少し大きくなってからのほうがよさそうですが。
文章はなくとも、お話はあるので、絵を見ながら想像するしかありません。親子で読めば、お互いの想像をめぐって会話が弾みます。うちでも「え〜っ!」「も、もしかして…」と驚いたり、声もなく顔を見合わせ吹き出したりして、おおいに盛り上がりました。
翻訳家・岸本佐知子さんによる解説もありますが、それは答え合わせに使うとして、一度は予備知識をいれずに読むのがおすすめ。緻密に描かれた絵をすみずみまで眺めると、「あ!」という気づきやひらめきがあるはずです。子どもが想像した話を聞いてみると、大人では思いつかないような発想に驚かされるかもしれませんよ。
読み聞かせではなく「いっしょに絵本を眺める」のも、たまには楽しいもの。
絵から想像を膨らませて“発見”することの楽しさ(これがアハ体験?)を、ひさしぶりに実感した一冊でした。

絵がないから自分でお話をつくって楽しめるんじゃない?
◆『旅する小舟』公式サイト

旅の絵本で「成功」の擬似体験を
今回紹介した3冊に共通点するのは、主人公がいずれも旅の目的地に到着していることです。
主人公たちは、次々と降りかかる試練にもくじけず、さまざまな試行錯誤をして、ついに旅を完遂させます。失敗してもあきらめず、次の一歩につなげたことが、旅の成功につながったのかもしれません。
本を読んだ後は「やったー!」と主人公と喜びを分かち合い、挑戦することや続けることの楽しさを感じ取ってくれるといいなと感じます。
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